日本の産業競争力向上を図るため、平成26年1月から生産性向上設備投資促進税制と呼ばれる制度がスタートしました。平成29年4月以降に導入した設備に対しては、優遇処置はありませんが、それ以前に購入したものについては、対象となっています。
設備投資に関するいくつかの要件を満たすことで、事業者はこの制度を活用することができます。
税制上の優遇措置を受けることができることから、魅力的な制度と言えるでしょう。
いくつかの優遇措置の中でも、100%即時償却は設備投資を検討する事業者にとって注目しておきたいものです。
そこで本記事では、同制度における100%即時償却とはどのようなものか、そしてどのようなメリットがあるのかを、従来の会計処理である減価償却との比較の上で、ご説明したいと思います。
生産性向上設備投資促進税制とは、設備投資をおこなった個人事業主や中小企業の税制面でサポートする制度です。税制面でのメリットは次のようになります
即時償却もしくは税額向上5%
特別償却50%または税額控除4%
上記期間内に設備を購入した個人・法人は、税制面で大きなメリットを受けられることになります。国は、この制度により事業者の生産性や効率性をあげることを目指しています。
個人や法人には、メリットが大きなこの制度ですが、設備によっても対象になるかどうか異なります。この制度は、生産性や効率性をあげることを目的としているため、「先端技術」もしくは「生産ラインやオペレーションの改善に関する設備」であることが求められます。
それぞれの条件が定義されているので、事前に対象となる設備をご紹介します。
まずは、先端技術についてご説明します。別名、A類型と呼ばれており、簡単な手続きで、税制優遇が受けられます。申請をするためには、次の2つの条件を満たしている必要があります。
先端技術として認められるためには、最新のモデルである必要があります。ここで言う最新モデルとは、機械によって異なります。例えば、機械装置であれば10年以内に購入したもの、工具であれば4年以内に購入したものとして定義されています。
例を出すと、2015年に販売開始されてから一度も新型が出ていない場合は、税制措置の対象となります。しかし、2015年よりも前に発売されたモデルは、販売開始から10年以内だとしても対象外ですので、注意が必要です。
先端設備は、最新モデルという条件だけではなく、生産性が年間で1%以上向上している必要があります。ここで言う生産性の向上は、現在導入している設備と新しく導入する設備の比較ではなく、新モデルと旧モデルの比較を意味しています。生産性の条件は、時間当たりの生産量、制度、エネルギー効率など、様々な条件から団体が判断します。
もう一つの枠として、B類型と呼ばれる制度があります。利益改善のための一連の設備が丸ごと対象となります。申請をする上での条件は一つです。
B類を申請するためには、投資利益率が15%以上出ている必要があります。利益率の計算方法は決められており、次のような式で計算します。
「営業利益+原価償却費」の増加額÷設備投資額
この式で計算した結果、15%以上(中小企業は5%以上)になるのであれば、申請が可能です。
実は、A類型とB類型に共通している条件の一つとして、一定の価格以上であることが求められます。
・機械装置:160万円
・工具及び器具備品:120万円
(単品30万円以上かつ合計120万円)
・建物:120万円
・建物附属設備:120万円
(単品60万円以上かつ合計120万円)
・ソフトウェア:70万円
(単品30万円かつ合計70万円)
このように、設備の最低価格が決められています。税制面でメリットはありつつも、中小企業や個人には大きな投資になりますので、事前の資金計画が重要です。
機械や装置、建物等を取得した場合、それらは会計上で固定資産として扱われます。
そして、固定資産の会計は「減価償却」と呼ばれる方法で処理されます。
減価償却とは、固定資産の取得価格を複数年に分割して費用計上する方法です。
どの程度分割されるかは、固定資産の種類ごとに決められた「耐用年数」によって決まります。
固定資産毎の具体的な耐用年数は、国税庁のウェブサイトでも確認することが出来ます。
https://www.keisan.nta.go.jp
たとえば、冷房用・暖房用機器の耐用年数は6年とされており、したがって冷暖房を取得した際の会計処理は、取得価格の6分の1を、6年間かけて毎年費用計上することになります。
このように、取得時の費用を一度で計上しない理由は、「費用収益対応の原則」と呼ばれる考え方から来ています。
費用収益対応の原則とは、収益を得るために貢献できた価値の分だけを費用計上しようという考え方です。
つまり、収益と費用の因果関係を対応付けることを主眼としています。
そして、減価償却は費用収益対応の原則が会計処理に反映されたものと言えます。
(なお、減価償却には定額法と定率法という2通りの方法がありますが、本記事では説明を簡易にするため、毎年一定額を費用計上する定額法で説明しております。)
固定資産を取得した際は、上記のような減価償却で会計処理を行うのが通常ですが、生産性向上設備投資促進税制を活用した場合は取得した設備に対して100%即時償却が可能になります。
100%即時償却とは、従来の減価償却とは異なり、導入したその年に一度で費用計上できる方法です。
導入した設備に対して100%即時償却が可能となるわけですので、例えば200万円の設備投資を行った場合、従来は減価償却で複数年に分割して費用計上すべきところを、100%即時償却では取得したその年度に200万円全てを費用として扱うことが出来るようになります。
それでは、100%即時償却することでどのようなメリットが生まれるのでしょうか?
取得年度の費用が従来の減価償却による処理よりも増加するため、結果としてその年の利益が減少します。
そして、利益が減少するということは、利益に対する納税額が減少するということに繋がります。
納税額が少なくなる分、活用できる資金がより多く残ることになり、事業の運用資金等として活用できるようになるわけです。
100%即時償却は、設備投資を検討されている事業者にとって、その年の大きな節税対策となり得るでしょう。
生産性向上設備投資促進税制について、税制の優遇措置を受けられることをご紹介してきました。しかし、中小企業はこの制度に加えて、さらに中小企業投資促進税制を併用することで、さらなる優遇を受けられます。対象設備は、A類型、B類型の設備であり、次の要件を満たす個人・企業が対象です。
・資本金3,000万円以下の法人及び個人事業者は、即時償却又は10%の税額控除
・資本金3,000万円超1億円以下の法人は、即時償却又は、7%の税額控除
生産性向上設備投資促進税制は、28年度4月1日から29年3月末実までに購入したものについては、優遇の割合を落としています。もし、この期間に購入した設備であれば、中小企業投資促進税制を使えば、本来は即時償却できない設備も、即時償却の対象とすることができます。結果として、購入年度に経費として処理することができ、税制面での大きな優遇処置を受けることができます。
利益の出ている個人・企業からすれば、この優遇処置はメリットしかない制度です。投資する資金が手元にあれば、税金を払う代わりに設備投資ができるようなものです。
100%即時償却によって、その年に取得した制度対象設備の投資金額を全て、その年の費用として扱うことができます。
ただし、100%即時償却を適用したとしても、それは費用を先取りすること同様で、最終的には減価償却で数年に渡って費用計上した場合と本質的には変わりません。
それでも、固定資産を取得した年度に大きな節税対策が可能になることから、事業の資金繰りも容易になるのではないでしょうか。
大きな設備投資を検討されている事業者にとって、設備投資の大きなチャンスとも言えると思われます。
生産性向上設備投資促進税制は、ぜひとも注目しておきたい制度です。
ただし、設備の条件など決まりがありますので、事前に条件の確認をしておく必要があるでしょう。また、平成29年4月以降に購入した設備は対象にはなっていません。平成29年3月以前に購入した設備が対象となっていることに注意しておきましょう。
2017/10/10