水量に恵まれた日本は水力の持つエネルギーの恩恵を大きく受けることができ、また、エネルギー変換効率の高さから水力発電は再生可能エネルギーとして大きく期待されています。
水力発電設備の種類も土地の状況に合わせて採用することができ、種類によっては安定した電力を確保することが出来ます。
このように、水力発電は魅力的な発電方法と言えますが、同時にデメリットが残されていることも事実です。
そこで今回は、水力発電の持つメリットをあらためてご紹介し、合わせて、デメリットも整理してみたいと思います。
水力でどのように発電しているかご存知ですか?実は、水を高いところから落とし、水車を回し発電機で電気をおこす仕組みです。一度ダムを作ってしまえば、維持費がかからないこともあり、日本では昔から使われていました。
水力発電は他の発電方法と比較してCO2排出量が圧倒的に少ないことが知られています。
発電のメリットを見ていくときには環境に優しいことは大きなポイントであるため、水力発電が温室効果ガスをほぼ排出しないのは重要なメリットであると言えます。
一般財団法人中央電力研究所の報告によれば、グラム・CO2/kWhの単位で比較すると、例えば火力が943グラムの排出量となりますが、中小水力の場合は11グラムであり、地球環境に極めて優しいと言えます。
(出典:中央電力研究所報告)
ちなみに、CO2排出量が一番多いのは石炭火力と石油火力です。その次に、LNG火力があり、太陽光、風力、原子力、地熱と続き、一番排出量が少ない発電方法が水力発電なのです。どの発電方法よりも環境に優しい発電方法と言えるでしょう。
日本列島には山岳や河川が多く、そのため水の落差を有効活用できる場所が比較的多く存在します。
国土の面積のうち4分の3が山地であり、起伏が多い日本の地形は水力発電に向いています。
地形を有効活用するためにも、日本では流れ込み式、調整池式、貯水池式、揚水式の4つの方法がとられています。流れ込み式は、河川の水を貯めることなく、そのまま利用する発電方式です。調整池式は、規模の小さいダムに、夜間や週末などの一部の時間に発電を抑え、河川水を貯めます。日中になれば電力の消費量が増えるため、夜に貯めた水を流し発電をおこないます。
貯水池式は、大きなダムに水を貯めておく方法です。よくテレビなどに映るダムの様子は、このような貯水池方式が多く見られます。揚水式は、上流と下流にダムを作り貯水します。その間に発電所を作り、水深の上げ下げをおこなうことで、水の流れを作り出し発電をおこなっています。
このように、地形やダムの大きさによって発電方法が異なります。日本は、幸い多くの川や山があるため、このように様々な発電方法を利用できるのです。
水力発電のエネルギー変換効率は約80%であり、他の種類のエネルギーと比較して極めて高いと言えます。
他の再生可能エネルギーの変換効率を確認すると、例えば風力は約25%、太陽光は約10%となっており、水力発電のエネルギー変換効率が突出していることが分かります。水力発電の次に効率がいいLNGでさえ、55%という結果になっており、80%という数字が他よりも圧倒的に高いことがわかります。
これは、水力発電では水の位置エネルギーと運動エネルギーが電気エネルギーへと変わる際に、エネルギーのロスがかなり抑えられているということです。
経済産業省・資源エネルギー庁主催の有識者会議である「発電コスト検証ワーキンググループ」の報告内容にコスト比較が掲載されており、小水力のコストはkWh単位で23.3円/kWhとなっています。
住宅向け太陽光発電のコストが29.4円/kWh、バイオマス発電のコストが29.7円/kWhとなっており、風力や地熱よりは若干劣るものの、水力発電のコストは再生可能エネルギーの中では優れている部類と言えます。
水力発電は、様々な発電方法があるとお伝えしましたが、水を貯水しておけるタイプのダムは、発電時間を自由に選ぶことができます。調整ができるメリットは、電力の発電が少ない時間帯や季節に水を貯めておき、電力が必要なタイミングでいつでも放流できるということです。
このように必要なタイミングにいつでも電力の発電ができる発電方法は、水力発電を除いてはありません。太陽光発電も、風力発電も、同じように自然エネルギーですが、太陽光や風を貯めておき、必要なタイミングで使うことはできないからです。
様々なメリットをご紹介してきましたが、水力発電にもデメリットがあります。
ダム建設は大規模な事業となり、周辺の自然環境に直接大きな影響を与えてしまいます。そのため、地域住民への説明と理解を得ることが必須となります。
また、住民だけでなく、人間以外の生き物が住み家を失うことにもなり、生態系への影響が出てしまいます。水力発電は、発電時には二酸化炭素など大気汚染の原因となる物質を排出しませんが、建設時に森林の伐採など環境破壊が伴います。この森林伐採は、山だけではなく海にも関係していると言われており、山から流れ出る栄養分がダムでせき止められ栄養が海に流れず、魚の減少にもつながっていると言われています。
渇水の時期が続いた場合、エネルギー源となる水そのものが減少するため、水の流れを応用することが難しくなり、それに伴い発電量に変動が発生します。
ただ太陽光や風力がいつどのように変化するのかわからないことに比べれば、河川やダムの水の状況が一瞬にして変化するというのは考えにくいため、再生可能エネルギーの中では比較的水力発電は安定している方だと言われています。
ダムは険しい山間部へ建設することになりますが、電力需要の多い都市部へ送電する際に送電ロスが発生しやすくなります。
新たに水力発電所を作る場合、それに伴ってダムの建設が必要となりますが、ダムの建設には多大な費用がかかります。また、ダムは長い年月とともに底に土砂が蓄積されていきます。したがって、ダムの機能を維持するため定期的に土砂を撤去するメンテナスが必要となり、その際にコストが発生します。
このような理由もあり、今後日本に新しいダムの建設はされないだろうと言われています。昔と比べて原子力発電や火力発電が日本の電力を支えており、水力発電の必要性が減っていることも確かです。
メリットもありデメリットもある水力発電ですが、世界的に見れば水力発電の割合は高いと言えます。国別に見ると、中国やフランスなどが発電量の10%を水力発電で発電していますが、日本においてもほとんど同水準の電力が水力発電で発電されています。逆に、イギリスや韓国などを見れば、発電量の少なさが顕著で、約1%が水力発電からの電力です。
国の地形の問題もありますが、化石燃料が取れない国や発展途上国のようにお金がない国は、まだまだ水力発電の建設を進めて行くでしょう。原子力発電所や火力発電所は、建設費用もかかり、原子力発電所にいたっては、厳重にコントロールしなければいけないため、発展途上国には適していません。
今後新しいダムが建設される予定がないため、日本における水力発電事業は頭打ちかというとそうでもありません。実は水力を活用する方法はそのまま、場所を変えて利用されようとしています。
これからは、工場排水や水処理場などの小規模な水力発電が注目されていきます。ダムに比べれば発電量はわずかですが、それでも一般家庭や工場などに電力を供給するには十分な発電量を得ることができます。小規模の水力発電のみで賄うことを考えずに、風力や太陽光と合わせて使えば、環境エネルギーだけで電力をまかなえる家や工場は増えていくでしょう。なぜなら、水力発電のメリットは、安定供給と発電量の自由な調整にあり、これらは太陽光発電や風力発電にはない部分だからです。
今回は、再生可能エネルギーとして期待の大きい水力発電のメリットとデメリットを合わせてご紹介しました。
地球環境に優しくコストパフォーマンスに優れるなど、水力発電には多くの利点がある一方で、気候に左右される発電量やダム建設に伴う地域の問題など、解決すべき問題も残されています。
それでも、水力発電以外の再生可能エネルギーと組み合わせることや、地域住民のご理解を得られるよう説明責任を果たすことで、水力発電の持つデメリットを補うことができます。
持続可能なエネルギー社会を推進するにあたり、永続的に利用できる水力という自然の力は、今後の私達の生活にとって不可欠なエネルギー源と言えるのではないでしょうか。
(参考)
・一般財団法人中央電力研究所報告 『日本の発電技術のライフサイクルCO2排出量評価』・関西電力公式ウェブサイト | 水力発電の概要
http://www.kepco.co.jp/
・関西電力公式ウェブサイト | 原子力発電について エネルギー問題と原子力 | 資源・エネルギーをめぐる問題エネルギーのベストミックス
http://www.kepco.co.jp/
・発電コスト検証ワーキンググループ『長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告平成27年 5月』
http://www.enecho.meti.go.jp/
2017/09/25