火山帯に属する日本は地中の熱源を活用する機会に恵まれており、地熱発電による安定的な電力供給に期待が寄せられています。
また、地熱発電はCO2発生を抑制できることから地球環境に優しい発電方式であり、純国産の熱源であることからエネルギー源の海外依存度が下がり、海外の経済動向に左右されにくいというメリットもあります。
このように地熱発電にはいくつかのメリットがありますが、それでは経済性の面やエネルギー効率の面ではどのような特徴があるのでしょうか?今回は、地熱発電のコストと効率性について確認してみたいと思います。
地熱発電では、地中の熱源による蒸気を活用するため、長期間に渡る地中の調査や大規模設備を建設する必要があります。それに伴い、地熱発電所稼働までに関わる費用の規模は大きくなることは避けられません。
しかし、地熱発電所が稼働すれば費用対効果は優れています。
経済産業省・資源エネルギー庁主催の有識者会議「発電コスト検証ワーキンググループ」の報告によれば、直近での地熱発電のコストは16.9円/kWh(政策経費を除けば10.9円/kWh)と推計されています。
(政策経費とは、IRR相当政策経費や予算関連政策経費を合わせた費用になります。)
また、同報告によればその他の再生可能エネルギーも含めた発電コストは以下のように示されています。
再生可能エネルギーの種類 | コスト | 政策経費を除いたコスト |
---|---|---|
住宅向け太陽光発電 | 29.4円/kWh | 27.3円/kWh |
非住宅向け太陽光発電 | 24.2円/kWh | 21.0円/kWh |
地熱発電 | 16.9円/kWh | 10.9円/kWh |
風力発電(地上) | 21.6円/kWh | 15.6円/kWh |
少水力発電 | 23.3円/kWh | 20.4円/kWh |
バイオマス発電(木質専焼) | 29.7円/kWh | 28.1円/kWh |
(出典:『長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告平成27年5月』を参考に作成)
他の再生可能エネルギーと比較すると、地熱発電は長期的な視点から見ればコストパフォーマンスに優れた発電方式と言えます。
それでは、地熱発電の効率性の面にはどのような特徴があるのでしょうか?
地熱発電は、太陽光発電や風力発電と異なり天候や時間に左右されないため、安定した電力量を生み出すことができます。このことから、設備利用率という観点からの効率性は、他の再生可能エネルギーよりも高い部類と言えるでしょう。
例えば太陽光発電の設備利用率は12%ほどと言われていますが、地熱発電の場合は約80%もの利用率になります。
(データの出典:日本地熱学会『地熱発電の現状と課題』2014年)
地熱発電所は、事前の調査や発電所建設に相応の時間とコストが必要ですが、設備が稼働し始めれば、その高い設備利用率から効率の高い発電が実現できると言えます。
ここまで経済性や効率に焦点を当ててご紹介してきましたが、どちらも年々改善されてきています。それよりも、地熱発電を代表とする再生可能エネルギーを今後日本のエネルギー源にしていかなければいけません。
東日本大震災以降、日本の電気代は値上げりの一方です。その原因となっているのが、原発の停止と火力発電への依存です。
経済産業省が発表した「2016年度エネルギー白書」によると、東日本大震災の前は火力発電の割合が61.7%だったにも関わらず、震災以降は87.7%に上昇しています。これは、全国の原発が停止したことが原因です。
福島原発がメルトダウンをおこし、日本だけではなく世界中から注目が集まった時でした。日本国内では原発を停止させるためのデモがいたるところで起き、やがてすべての原発が停止しました。
ただ、原発が停止したからといっても、電力の需要が減るわけではありません。その減った分を補ったのが火力発電です。火力発電で使う化石燃料は基本的に全て輸入に頼っているため、結果的に海外からの輸入量が増えて日本の貿易赤字の原因の一つとなりました。この時、日本が極端な円安になっていたことももちろん原因の一つです。
また、火力発電量が増えたことで、CO2の排出量も同じように増えていきました。原発を停止したことで、原発を稼働させなくても電力の供給には問題がないことがわかりましたが、それと同時に海外からの輸入に頼らなければ電気の発電ができないことが明白になりました。
それに加え、東京電力は電気の値上げを継続的におこなっています。これは、燃料の輸入量が増えたことが原因でした。
このように、東北地震をきっかけに日本のエネルギー事情の問題点が明るみにでました。これと同じタイミングで、風力発電や太陽光発電にも注目が集まり、一般家庭にも徐々に広がってきています。
しかし、太陽光発電や風力発電だけでは日本の電力をまかなうことはできず、その他の再生可能エネルギーにも力を入れていかなければいけません。
その一つになれるのが、地熱発電です。現在では、導入コストや効率の問題、導入時の環境の問題などが重なり、普及が進んではいませんが、地熱資源が豊富な日本だからこそ今後の展開が期待されます。
日本は世界第3位の地熱資源を保有する国であり、地熱発電の設備の多くは日本企業によって製造されています。しかし、世界第1位と2位のアメリカとインドネシアは積極的に地熱の活用をしており、日本はこの2国に比べれば導入が遅れていると言わざるを言えません。
最近では徐々に地熱資源を活用していこうという動きが出てきており、固定価格買い取り制度のような政府によるバックアップを受けて、徐々に導入が進んできています。そもそも日本の地熱発電の原点は50年以上昔に遡ります。それだけ歴史のある発電方式にも関わらず、導入がここまで進んでいないのには、設備の値段の高さだけではなく、環境への配慮も原因でした。今では規制緩和も徐々に進めてきたこともあり、莫大なポテンシャルを生かそうと国や地方が徐々に動き始めています。
地熱発電にはいくつかの種類がありますが、日本で注目を集めているのがバイナリー発電と呼ばれる発電方式です。温泉に使うには熱すぎる熱湯の熱を水よりも沸点の低い液体に移し、蒸発させる方法です。熱湯は熱を逃がすため、温泉として適切な温度まで下げることができ、なおかつ別の液体を蒸発させることでタービンを回し電力を発電することができます。まさに、日本に適した発電方式と言えるでしょう。
このバイナリー発電に積極的に取り組んでいるのが、有名な温泉街を抱える大分県です。全国に30箇所以上あるとされている地熱発電施設の多くがここ大分県にあります。積極的に地熱発電を活用していることもあり、再生可能エネルギー自給率は、23%と全国トップの数字です。
このバイナリー発電が優れているところは、新しい発掘をせずに既存の温泉を使って発電できることにあります。そのため、すでに温泉を掘ってしまっている施設でも、簡単に導入することができます。
今まで投資や環境破壊がデメリットでしたが、バイナリー発電であれば低コストで地熱発電に取り組むことができるのです。そういったこともあり、地熱発電は徐々に日本中に広がっています。他の都道府県も大分県のように電力の20%以上をカバーできるようになれば、もともと原発が補っていた電力を再生可能エネルギーでカバーできるようになるでしょう。
ただ一つ問題点があります。この地熱発電は、すべての地域でできるわけではなく、ある一定の条件がそろわなければいけません。そのため、多くは九州、東北、関東、北海道のみしか現在はおこなわれていません。
今回は、経済性と発電効率の面から地熱発電の特徴を整理してみました。
太陽光発電や風力発電等、他の再生可能エネルギーの発電方式と比較すれば、地熱発電はコストパフォーマンスに優れ、また設備利用率という観点からは高効率と言えます。
そのような優れた特徴があるにも関わらず地熱発電の普及が遅れているのは、自然環境への配慮や地域経済への影響が懸念されているからです。そのため、今後は自然環境や地域経済の保全と地熱発電が共存できる方策が求められています。
持続可能なエネルギー社会の実現のためには、多様な発電方式を組み合わせることが不可欠です。経済性、効率性ともに高いレベルで安定した地熱発電は大切な発電方式の一つであり、今後の普及に期待が持たれています。
(参考)
・発電コスト検証ワーキンググループ『長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告平成27年5月』
・NEDO『再生可能エネルギー技術白書 第2版』 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構編
平成27年度エネルギーに関する年次報告
http://www.enecho.meti.go.jp
・日本地熱学会『地熱発電の現状と課題』
2017/11/15