2011年に発生した東日本大震災をきっかけに、太陽光等による再生可能エネルギー普及の動きが活発になってきました。再生可能エネルギーを有効活用するためには、太陽光発電の場合は太陽光パネルが必要となり、さらに突然の停電時や夜間の電気利用のためには蓄電システムも重要な装置になります。
そのため、太陽光発電システムとともに蓄電システムを導入したいと検討される方も増えてきたと思われますが、その際に気になることが蓄電池の価格ではないでしょうか。
そこで、今回は蓄電池の価格帯はどのよう推移してき、そして現在の価格水準はどのようになっているかご紹介したいと思います。
経済産業省蓄電池戦略チームがまとめた『蓄電池戦略』(平成24年7月)によれば、1kWhあたりの蓄電池コストとして、材質ごとに以下のようにまとめられています。
蓄電池種別 1kWhあたりのコスト 鉛蓄電池 50,000円 リチウムイオン蓄電池 200,000円 ニッケル水素電池 100,000円 NAS電池 40,000円
(『蓄電池戦略』の情報を元に作成)
現在、家庭用や産業用の定置用蓄電システムにおいて主に活用されており、今後も普及が見込めるとされているものがリチウムイオン蓄電池になりますが、数ある種類の蓄電池の中でも最も高価であることが分かります。
しかし、リチウムイオン蓄電池は量産化することにより価格低下が見込まれており、また技術革新によるエネルギー密度向上も期待されています。そのため、リチウムイオン蓄電池は国としても普及を後押ししたいことから、購入時の補助金対象の種類となっています。
それでは、リチウムイオン蓄電池の価格はどのように変化してきたでしょうか。
『経済産業省生産動態統計年報』機械統計編のデータによると、近年のリチウムイオンタイプの蓄電池の販売数量と販売金額、そして1単位あたりの価格は以下のように推移しています。
年 販売数量
(千個)販売金額
(百万円)1単位(セル)
あたり価格変化率 2003年 780,921 305,548 391.37円 – 2004年 828,332 293,751 354.63円 -9.36% 2005年 926,502 289,148 312.09円 -12.00% 2006年 1,072,501 304,264 283.70円 -9.10% 2007年 1,137,100 333,421 293.22円 3.36% 2008年 1,256,111 390,423 310.82円 6.00% 2009年 1,082,974 280,883 259.36円 -16.56% 2010年 1,317,624 295,779 224.48円 -13.45% 2011年 1,218,342 250,579 205.67円 -8.38% 2012年 970,268 317,461 327.19円 59.08% 2013年 844,622 279,364 330.76円 1.09%
(『経済産業省生産動態統計年報』機械統計編を元に作成)
基本的には年が進むとともに価格が下落する傾向であることが分かります。2012年には一時的に値段が急上昇していますが、これは東日本大震災の影響などによる事情が影響したのかもしれません。
補助金対象となるリチウムイオン蓄電池は、補助金交付の主体である一般財団法人環境共創イニシアチブ(SII)の公式ウェブサイトに表示されています。
補助金は、2015年まででしたが、同サイトで補助金対象として登録されていた蓄電池の価格を下記のようにご紹介します。(価格や対象の蓄電池は今後更新される可能性があります。また、各メーカーのうちそれぞれ一つを記載しております。)
メーカー 蓄電池の型番 蓄電容量 定各出力 国が定める
基準価格(A値)目標とされる価格(B値) フォーアールエナジー株式会社 EHB-240A030 12kWh 3000W 2,162,000円 1,036,000円 東芝ライテック株式会社 ENG-B6630A2-N1 6.6kWh 3000W 2,162,000円 1,036,000円 株式会社デンソー DNHCLB-AHW4 4.1kWh 2000W 946,000円 428,000円 株式会社エヌエフ回路設計ブロック LS066H 6.6kWh 3000W 1,440,000円 660,000円 日本電気株式会社(NEC) ESS-003007C0 7.8kWh 3000W 1,568,000円 724,000円 パナソニック株式会社 PLJ-25522KN1 5.6kWh 5500W 1,216,000円 548,000円 シャープ株式会社 JH-WBP01 4.4kWh 2000W 1,072,000円 476,000円 エリーパワー株式会社 EPS-11 6.2kWh 3000W 1,312,000円 596,000円
(環境共創イニシアチブ公式ウェブサイト「量産型登録機器一覧および補助額計算」を元に作成)
上記表の基準価格を1kWhあたりに換算すれば、2016年時点でのリチウムイオン蓄電池はおおよそ20万円代の価格帯であることが分かります。1kWで、50万円の時代もあったので、年々金額が下がってきていることは確かですが、それでもまだまだ手が届きにくい値段です。ちなみに、鉛電池は、1kwあたり8万円前後で取引されています。配線や工事費用などを含めると30万円程度でしょう。リチウムイオン電池よりは、安く購入できますが、その分鉛電池は性能が落ちます。
施工業者は、鉛電池よりもリチウム電池を提案してきます。鉛蓄電池は、鉛を使った蓄電池であり、値段が安く安定した電力供給ができるメリットがある一方、硫酸や鉛を使っていることもあり安全面での不安があります。安全性を考慮すれば、リチウムイオン電池のほうが何倍も安心して長期的に使用ができます。
また、重量の問題もあります。リチウムイオン電池が好まれるのは、充電できる容量が大きく、軽量である点です。また、サイズも小さく場所を取らないため、一般家庭においておくには、ちょうど良い蓄電池なのです。もちろん、すべてが完璧な電池ではないので、コントロールがしづらいというデメリットがあります。鉛電池は、サイズも大きく場所を取り、使われている材料も危険なものでありますが、長年の歴史があり製品の安定性については、リチウムイオン電池よりも高いことは確かです。
時々、スマートフォンなどに使われている電池が、膨らんだり、爆発したりするのは、リチウムイオン電池がまだ不安定ということが言えます。ここ最近では、徐々に開発が進み、コントロールできるようになってきています。また、開発が進んできている経緯には、電気自動車やPHVの開発競争も影響しています。
アメリカに電気自動車を販売しているテスラ・モーターズという会社があります。この会社は、イーロンマスクという次期スティーブ・ジョブスと言われている人が設立し、アメリカで大成功を納めています。現在は、日本を含む全世界にテスラ・モーターズの車が輸出され、その規模は徐々に大きくなってきます。
なぜ、車の話になるかというと、電気自動車はリチウムイオン電池で動いているからです。しかも、テスラ・モーターズのリチウムイオン電池はパナソニックが供給しています。両社は、今後共同で生産工場の投資をおこない、リチウムイオン電池の大量生産と開発を積極的におこなうことを同意しています。パナソニックは、車のリチウムイオン電池に強く、業界ではこの提携は驚きとして迎えられました。
そして、そのテスラ・モーターズが、パワーウォールという家庭用リチウム電池を2015年から販売し始めました。
ご存知の通り、蓄電池は現代の社会になくてはならい存在です。家庭の太陽光発電で発電した電気を蓄電するためにも使われています。ただ、デメリットとされているのは、導入コストです。5kWのもので100万円以上します。さらに工事費用も別途かかるため、お金に余裕のある方しか導入できません。それに加え、寿命も5年〜10年と短いため導入のリスクがあります。
テスラ・モーターズは、そんな状況に対してパワーウォールという低価格の家庭用蓄電池を販売しました。価格は10kWhタイプで42万円前後(3500ドル)、7kWhタイプで36万円前後(3000ドル)とであり、設置費等は含まれていないものの、極めて低価格です。また、10年保証もついています。
このコストパフォーマンスが高い蓄電池がより広がることで、今後競争が激しくなり、値段が下がっていくことが期待されます。
最初にお伝えしましたが、テスラ・モーターズは、「Gigafactory(ギガファクトリー)」と呼ばれる大規模なバッテリー工場をパナソニック等と共同出資して建設を始めました。2020年の本稼働を目指し、年間のバッテリー生産規模は、2013年に全世界で生産されたバッテリー合計数を上回る数とされています。それだけ多くのリチウムイオン電池の需要が世界中にあるということです。
ギガファクトリーにて大量のリチウムイオン電池が製造されることにより、製造コストがさがり、さらに安いパワーウォールが生まれるかもしれません。さらに、それに価格が落ちたリチウムイオン電池が市場に出回ることで、他の企業が開発を強め、市場全体で価格が下がっていくでしょう。リチウムイオン電池の価格は年々下がってきていますが、それでもまだ高いのが現状です。大きな需要はあるので、これから開発が進んでいくことは間違い無いでしょう。また、テスラ・モーターズと協力しているパナソニックは、日本メーカーですが今後は、このように海外メーカーと協力をしながら、技術力や開発速度を高め、大量生産をおこないながら市場の優位性を保っていく方向にいく傾向が強くなっていくでしょう。
また、さらなる技術革新や他社製品の価格競争のためバッテリー価格の低下に一層はずみがつき、リチウムイオン電池が一般家庭でも手の届きやすい価格になる未来もそう遠くはないかもしれません。
現在のリチウムイオン蓄電池は1kWhあたり20万円のものが相場のようです。現時点ではまだ高価のように見えますが、補助金対象の蓄電池も多数あり、またリチウムイオン蓄電池の価格も年々低下する傾向にあります。
そして、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が平成25年8月にまとめた『NEDO二次電池技術開発ロードマップ2013』によれば2020年時点での蓄電池はさらなる低価格化が期待されています。
その理由は、電気自動車が社会全体で広まり、リチウムイオンの開発がさらに進んでいくからです。開発から一歩抜け出しているパナソニックとテスラ・モーターズを筆頭にこれからも、リチウムイオンの開発は進んでいくでしょう。
これらのことから、将来的にはリチウムイオン蓄電池を導入する敷居が今以上に低くなると思われます。
(参考)
・ 経済産業省蓄電池戦略プロジェクトチーム『蓄電池戦略』平成24年7月
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_problem_committee/028/pdf/28sankou2-2.pdf
・ 環境共創イニシアチブ公式ウェブサイト
https://sii.or.jp/
・ 『経済産業省生産動態統計年報』機械統計編
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/ichiran/08_seidou.html
・ NEDO二次電池技術開発ロードマップ2013
http://www.nedo.go.jp/content/100535728.pdf
2017/05/04