再生可能エネルギーの固定価格買取制度が2012年にスタートし、約2年の運用が経過した頃、同制度がはらむ問題点が浮き彫りになってきました。
電力の買い取り価格が1年ごとに値下げされるため、年度末になれば発電設備の申請が急増しました。発電事業者にとっては、価格が高いうちに申請することで、より高い売電利益が見込めるからです。
その結果、電力会社数社にとっては想定されていた以上の再生可能エネルギーの買い取り量になり、さらに太陽光発電という天候に左右されやすい不安定な性質のエネルギーであることから、電力事業の安定運用にリスクが生じると判断されました。
そして、九州電力を始めとした電力会社数社では、2014年には新規申請分の買い取りを中断する事態に至りました。
また、実際に設備申請がされているにもかかわらず、建設着工に至っていないケースも散見され、固定価格買取制度そのものの見直しが求められるようになりました。
今回の記事では、このような問題を是正するために経済産業省で検討された固定価格買取制度の見直しについて、その主な内容を確認してみたいと思います。
現行の固定価格買取制度の下で発電事業者が実際に設備を運用するまでには、いくつかの段階を経て手続きが進みます。
最初の段階は、発電事業者が国に対して「設備認定申請」を行います。申請して1ヶ月ほど経過した後に、設備認定の取得ができます。
次の段階は、発電事業者が電力会社に対して「接続申込」を行います。申込み後、発電事業者と電力会社による1ヶ月ほどの協議期間を経て、次の段階として「接続契約」が実現します。
その後は、本来であれば発電設備の建設着工に至り、発電事業の運用開始になります。この流れを簡便に図式化すると以下のようになります。(実際の流れはさらに詳細な手続きが含まれます。)
設備認定申請 → 接続申込 → 接続契約 → 設備建設 → 発電開始
ここで、従来の制度下にて買い取り価格が確定するのは「接続申込」のタイミングでした。しかし、このタイミングで買い取り価格が確定すると、設備の建設が始まる前に価格が固定化されることになり、設備に関わるコストが下がる時期まで工事を開始しないことも可能になっていました。
長い場合には買い取り価格が決まって1年以上も経って着工というケースも見られました。それが、今回問題の背景の1つです。
そこで、買い取り価格が決定するタイミングを「接続申込」ではなく、原則として「接続契約」にしようというのが、見直し案の1つとして提言されました。「接続契約」を締結するためには、大前提として設備建設の着工が明確になっていることが求められます。
従来のように買い取り価格確定のタイミングが「接続申込」の時点であれば、いわゆる「空押さえ」と呼ばれる手法が可能になります。
「空押さえ」とは、上記でも触れましたが発電事業者により接続の申込が完了したにもかかわらず、実際の発電事業を運営するタイミングを合理的根拠なく遅らせることです。
経済産業省によれば、現実に発電設備が正式に稼働まで至ったのは、認定されたもののうち約15%しかないと言われています。
そこで、このような「空押さえ」を防止するため、接続申込み後、予定通りに設備の建設着工・稼働が行われない場合は、接続枠の契約解除も可能にできる旨も、見直し案の中に盛り込まれました。
そして、それらの見直し案をもとに、固定価格買取制度を取り決めている「再エネ特措法」(正式名称:電気事業者による再生エネルギーの調達に関する特別措置法)の改正が進められており、2017年4月より施行が予定されています。
改正される内容は主に以下の6つです。
①発電事業者の事業計画について、その実施可能性(系統接続の確保等)や内容等を確認し、適切な事業実施が見込まれる場合に認定を行う制度を創設する。
②数年先の買取価格をあらかじめ決定できるよう価格の決定方法を見直す。
③入札による買取価格の決定が電気使用者の負担軽減に有効と認められる場合に、入札を実施して買取価格を決定することができる仕組みを導入する。
④再生可能エネルギー電気の買取義務の対象を、小売電気事業者等から一般送配電事業者等に変更する。
⑤一般送配電事業者等に対し、買取りを行った再生可能エネルギー電気を卸 電力取引市場において売買すること等を義務づけるとともに、卸電力取引市場を介さずに供給する場合の供給条件を定めた約款について、経済産業大臣への届出を義務づける等の措置を講じる。
⑥電気を大量に消費する事業所における賦課金の減免制度について、減免の要件及びその額の見直しを行う。
(経済産業省資料 http://www.meti.go.jp/press/2015/02/20160209002/20160209002-3.pdf より引用)
上記で見た固定価格買取制度の見直し案は、2015年度から適用される見通しです。
その他にも見直し案に含まれる項目には、発電設備の立地に絡む地域トラブルを防止策や、発電出力増加時の手続き追加なども含まれていますが、今回浮き彫りにされた制度上の問題点に大きく関わるのは以上の内容になります。
これら見直し案が今後の運営に反映されることで、再生可能エネルギーの適正な活用が期待されています。
(参考:経済産業省資源エネルギー庁『固定価格買取制度の運用見直し等について』平成27年1月22日)
2016/11/04